NA WAY MAGAZINE 2018年1月号

NA WAY MAGAZINE 2018年1月号 日本語翻訳版

■ 回復の道で歳を重ねる
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回復の道で歳を重ねる
わたしは花束を抱えて、彼女の家の玄関先に立っていた。出てきてはくれないとわかっていたけど、最後にもう一度だけドアを叩いた。花束は、玄関のドアに立てかけた。こうしておけば、手に取ってもらえなくても、家の中に倒れるから植え込みに落ちないですむだろう。

持参したカードは折りたたんで、バラの花束の奥に差し込んだ。カードには、わたしが命をつないでうまく生きられるようになるために、彼女がこれまでにしてくれたことに対する感謝の気持ちを記してあった。ひとつひとつ2人で一緒にステップに取り組んだこと。わたしが心を閉ざすと、何度でも車で駆けつけてくれたこと。休日には何度となく一緒に過ごしたこと。財政が困窮したときにはお互いに支えあったこと。18年という年月が、過去のものになってしまった。ドアをノックしても、電話をしても、車にメモを貼り付けても、彼女はもう応えてくれなかった …… わたしはストーカーになったような気がしてきた。そこで、自分よりクリーンタイムが長い女性に電話をすると、「望まれていないのに、ひとの人生に無理やり存在しようとする」のはやめたほうがいいと言われた。こうして新たな相談相手となってくれた女性に、スポンサーをお願いした。わたしは裏切り者になったような気がしたけど、聞いてはもらえない留守番電話にせっせと棚卸を吹き込むなんてことは、もうやってられなかった。

かつてのスポンサーをいつものミーティングでみかけなくなったのには、わけがあった。「回復の道で病気になる」というミーティングにしか出ていなかったのだ。そこで、わたしもそのようなミーティングに一度出てみたのだけど、それだけでもう事情通になった気でいた。こんなところに集まっているのは治療薬に頼る連中ばかりだと、さもわけ知り顔で決めつけた。それにしても、かつてのスポンサーは「なにがあろうと、なにも口にしない」と考える一派だったのに。以前、わたしが喘息の吸入機を使用したときに、なんで使用する前に言わないのかとたしなめた人がこのありさまとは、まさかの展開だった。

そして時が流れ、そんなことも吹っ切れた。わたしには、せっせとミーティングに通い、サービスにも積極的に関わって、ステップワークにも熱心なスポンサーができたからだ。それでも2〜3年ごとに、かつてのスポンサーが毎月のバースデーミーティングでメダリオンを手にするのを目にしていた。深刻な衰えのさなかにある姿が痛々しかった。背中を丸めて、誇らしげに頭を前に突き出しながら歩んでいき、もたもたと壇上にあがって自分のクリーンタイムを告げる。すると、部屋にいる人たちが立ち上がって床を踏み鳴らしながら口笛を吹く。そのなかを、ゆっくりと自分の席に戻っていくのだった。まさに、肉体の苦痛と不屈の精神を絵に描いたようなものだった。どうみても勝ち目などないのに、それでもなんとか、クリーンで生き抜いているじゃないか。そんな姿を見せつけられて、「回復の道で病気になる」というミーティングをどうこう言うのは、もうやめにした。

あれから10年。 わたしはそれだけ年をとり、今では手足を動かすといった簡単なことも苦しくなっている。慢性的な症状をいくつも抱えているからだけど、まぁ、そんな話をしてもはじまらないから、わたしと同じ状態で苦しみに耐えられなくなった人が2人、安楽死を施すことで有名になった医師の世話になったと言うにとどめておく。だからといって、わたしは「ひとりぼっち」ではない。NAのオールドタイマーの多くが、回復の道で老いていきながら解決のつかない痛みと暮らしている。

こうなったら、何が適切なのか。それについてはいろんな考え方がある。

「何があろうと、何も口にしない」という仲間もいれば、医師の意見に従うという仲間もいるし、「医療マリファナ」の煙や蒸気を吸っている仲間もいる。わたしが今やっている方法や、これまでにやってみた方法をいくつか紹介しよう。まずは、NAの文献と、サービスと、棚卸。そして、イブプロフェン(非ステロイド系の解熱/鎮痛/抗炎症薬)、温冷パック、鍼、マッサージ、車椅子(1年間利用)、神経ブロック注射とステロイド注射。そして、繊維筋痛の投薬治療。そして催眠術、心を集中する訓練、経皮的末梢神経電気刺激法のさまざまな装置、カイロプラクティック。そして東洋医学、お茶とサプリメント、理学療法、水療法、スポーツクラブ、サイクリングマシン、仰向けに寝た姿勢で乗る自転車、ペダルを踏むと足が楕円形を描く運動器具、ヨガ。そして足にギブスをはめること、2回にわたる股関節の手術(手術中と術後に短期間の投薬)、毎日のストレッチ、電動車椅子。そして祈ること、黙想、書くこと、泣きわめくこと、文句をいうこと、這いつくばって懇願すること。そして仲間と一緒に活動すること、アート作品を作ること、アニマルセラピー、抗炎症効果のある食事、少しでもゆっくり休むこと、少しでも多くのミーティングに出ること。そして膝、くるぶし、背中などを固定する器具。松葉杖。あとはステッキ。レーザー・スクーター。ゴルフ・カート。まだまだ、あるだろう。

要するに、わたしは救済を求めて過酷な日々を送っているのだ。たしかに、正気の沙汰ではない。でも、それがわたしの人生だもの。できるかぎり苦痛を和らげれば、アディクションによって恐ろしい目に遭わずにすむだろうと思える。そうしてわたしは、だれのものでもない、わたしの道を生きるだけ。だからといって、わたしは自分のことを正当化するわけではない。ひとにはその人なりの道があるのだから、わたしもわが道を行くしかないのだ。

かつて、ナルコティクス アノニマスのクリーンタイムなどあってないようなものでメンバーは若者ばかりだと言われたものだし、そう考えても差し支えないとされていた。これは、すでにまったくの誤りになっている。私たちは胸を張って、そう言い切れる。NAには今や、20年以上のクリーンタイムがあるメンバーが数えきれないほどいるのだ。30年を超えるメンバーも少なくないし、40年を超えるメンバーだってかなりの数になる。そして、NAで回復の道を歩む高齢者の数はピークを迎えつつある。となれば当然、そこには痛みが伴う。何かと、苦しい思いをするわけだ。

わたしたちは(自分で運転するか、だれかの車に乗せてもらうかして)ミーティングに出席しても、話すように求められないかぎり、40年間毎日のように耳にしてきた話をただ聞きいているだけなので、目を開けているのに苦労することもある。それでも席に居座っていられること、それこそが老人にはなによりの余得なのだ。メンバーたちは、わたしたちがすべての答えを持っていて、腰が低くて賢く、周囲のバカ騒ぎに目くじらを立てたりしないし、つねに仏のような穏やかさで対処してくれるだろうと思っている。仮に、わたしたちが偏屈な気むずかし屋であるとしても、その姿によって、あとからつながったメンバーたちは長くクリーンタイムを重ねたときに、きっとわたしたちよりもっとましな生き方ができるようになる。そうであってもおかしくはない。いや、きっとそうなるだろう。

カリン・B (アメリカ合衆国/カリフォルニア)


これは、アメリカにあるNAワールドサービスから発行されているNAの雑誌です。時間がなかったことや翻訳予算が足りなかったことで一部の記事は英語のままもあります。全国のNAメンバーの皆様。全部翻訳できるように献金をお願いします。

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NA Way マガジン(The NA Way Magazine:ISSN 1046-5421)、NA Way(The NA Way)、ナルコティクス アノニマス(Narcotics Anonymous)、この3つは、ナルコティクス アノニマス ワールドサービス社のトレードマークとして商標登録されている。NA Way マガジンは、ナルコティクス アノニマス ワールドサービス社(19737 Nordhoff Place, Chatsworth, CA91311)によって、年に4回発行される。

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